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東京地方裁判所 平成8年(ワ)2600号 判決

主文

一  甲事件被告・乙事件原告が甲事件原告・乙事件被告から賃借している別紙物件目録記載の建物の賃料は、平成六年四月一九日から平成九年四月一八日まで一か月金三八〇万二一八八円であること及び同年四月一九日から一か月金四三七万二五一六円であることをそれぞれ確認する。

二  甲事件被告・乙事件原告の請求を棄却する。

三  訴訟費用は甲事件被告・乙事件原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

(甲事件)

主文第一項と同旨

(乙事件)

甲事件被告・乙事件原告(以下「被告」という。)が甲事件原告・乙事件被告(以下「原告」という。)から賃借している別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物部分」といい、建物全体のことを「本件建物」という。)の賃料は、平成八年四月一日から一か月二三九万六三〇〇円(特別賃料を除く。消費税別途加算。)であることを確認する。

第二  事案の概要

本件は、被告が原告から賃借している本件建物部分について、原告が被告に対し、賃貸借契約における賃料自動改定特約を理由として賃料の増額の確認を、被告が原告に対し、経済事情の変動等を理由として賃料の減額の確認をそれぞれ求めた事案である。

一  前提となる事実

1  原告と被告は、昭和六〇年四月一八日左記内容の訴訟上の和解及び賃貸借契約を成立させ、原告は被告に対し、本件建物部分を引き渡した(甲一、二。以下「本件賃貸借契約」という。)。

(一) 期間 昭和六〇年四月一九日から二〇年間

(二) 賃料

(1) 双方が不動産鑑定士に委任し、その中間値を賃料額とする。ただし、後日の精算を前提として当初は暫定的に月額一七五万二六〇〇円とする。

(2) 被告は、原告に対し、賃貸借期間中である二〇年に限り特別賃料を支払うものとし、その額は賃貸借開始時においては、月額三〇万円とする。

(3) 賃料(特別賃料を含む。)は、賃貸借契約開始の日から三年ごとに一五パーセント増額する(以下「本件賃料自動改定特約」という。)。

(三) 保証金及び敷金

(1) 保証金と敷金の総額は、以下の方法により算出した合計三億三二三一万二〇〇〇円とする。

イ 坪一二〇万円×一七五・二六坪=二億一〇三一万二〇〇〇円

ロ 別途協力金 七二〇〇万円(実質的には土地等価交換の差金)

ハ 別途協力金 五〇〇〇万円(実質的には被告側の外装に三階から九階まで合わせる承諾料)

(2) 敷金は、四〇〇〇万円とし、契約終了時まで無利息据置とする。

(3) 保証金は、(1)の総額から(2)の敷金四〇〇〇万円を控除した二億九二三一万二〇〇〇円とし、原告は被告に対し、賃貸借開始から一〇年間は無利息で据え置き、平成八年四月一八日から一〇分の一ずつ残額に二パーセントの利息を付して返還する。

(4) 被告は、原告に対し、昭和五九年一月一四日に予約保証金として一億一二〇〇万円を、同年三月三一日に保証金の内金四四〇六万二四〇〇円を預託し、原告はこれを受領したことを確認する。

(5) 被告は、原告に対し、敷金四〇〇〇万円及び保証金の残金一億三六二四万九六〇〇円を本和解成立と同時に支払い、原告はこれを受領した。

2  原告と被告間の鑑定結果の中間値に基づく本件建物部分の当初賃料は、昭和六二年一一月五日二二〇万円と確定した(争いがない。)。

3  本件建物部分の賃料(特別賃料を含む。)は、本件賃料自動改定特約に基づき、昭和六三年四月一九日以降一か月二八七万五〇〇〇円に、平成三年四月一九日以降一か月三三〇万六二五〇円にそれぞれ増額された(争いがない。)。

4  被告は、本件賃料自動改定特約は失効したとして、同特約に基づく平成六年四月一九日以降及び平成九年四月一九日以降の本件建物の賃料の増額(特別賃料を除く。)を争っている(争いがない。)。

二  争点

1  本件賃料自動改定特約は、事情変更の原則により失効したか。

2  被告の原告に対する賃料減額請求は、本件賃料自動改定特約に反し認められないか。

三  被告の主張

1  本件賃貸借契約が締結されたころは、いわゆるバブル経済の地価高騰期にあり、三年ごとの賃料改定期日に賃料を一五パーセント増額することが期待できる状況にあった。したがって、本件賃料自動改定特約は有効に成立した。昭和六三年四月一九日及び平成三年四月一九日に本件建物部分の賃料がそれぞれ一五パーセントずつ増額されたが、当時はいわゆるバブル景気の絶頂期にあり、右賃料も本件賃料自動改定特約に基づき増額することが当然と判断された。

しかしながら、平成三年八月には株価の暴落がその極に達し、土地価格の下落も半年ないし一年遅れで始まった。いわゆるバブル経済の崩壊であり、本件賃料自動改定特約が前提とする経済情勢は平成四年以降大きく変動したものと認められるから、右特約は遅くとも平成六年四月一九日までには、事情変更の原則により失効したというべきである。

以上によれば、本件賃料自動改定特約に基づく原告の賃料増額の請求(特別賃料を除く。)は認められない。

2  被告は、原告に対し、平成八年三月一一日本件建物部分の賃料が経済事情の変動等により不相当となったことから、右賃料(特別賃料を除く。)を月額二三四万四一〇三円に減額する旨の意思表示をした。

四  原告の主張

1  本件賃料自動改定特約は、失効しておらず、同特約に基づく賃料の増額が認められるべきである。その理由は以下のとおりである。

(一) 本件賃貸借契約は、本件建物部分と被告所有の建物とが一体となって、全体として被告渋谷店本館の利用に供するという特別の目的があり、係る目的を実現するために、次のような約定がされている。

(1) 賃貸借の期間を二〇年間という長期間とすること

(2) 本件建物部分の外装を被告所有建物と同一とすること

(3) 被告は、営業に必要な広告や看板(袖看板及び懸垂幕を含む。)を本件建物部分に無償で設置することができること

(4) 被告は、本件建物の屋上及び塔屋部分に広告や看板類を設置しないこと

右のような双方間にとっての有利、不利な店を一〇〇回以上にわたる交渉により十分勘案した上で、最終的には裁判上の和解という形により本件賃料自動改定特約を含む本件賃貸借契約が締結された。なお、本件賃料自動改定特約の有効期間は、本件賃貸借契約と同様に二〇年間であり、無期限のものではない。

(二) 本件賃貸借契約では、賃料の増額に対する借主側のリスクヘッジとして、原告が被告に対し、一一年目以降巨額の保証金を二パーセントの金利を付して返還することが予め合意された。そして、右金利を付した保証金の返還は、何ら変更されることなく、現在も実行されているのであり、本件賃料自動改定特約に基づき、賃料が増額されたとしても、被告にとって、経済的には何ら苛酷ではない。

かえって、金利を付しての保証金返還合意をそのままにしておいて、本件賃料自動改定特約の効力を否定すれば、実質賃料は一一年目以降大幅な減額になり、賃貸人である原告にとって著しく不利益な結果を招来する。

(三) 本件賃貸借契約は、本件賃料自動改定特約があること、二〇年間という賃貸期間中更新料の授受がないこと、原告は被告に対し、巨額の保証金を二パーセントの金利を付して一一年目から返還すること等の取決めがすべて連動し、関連し合って、一つの契約関係を形成している。

(四) 本件賃料自動改定特約の適用がないことを前提として本件建物部分の相当賃料を検討したとしても、平成六年四月一九日及び平成九年四月一九日の相当賃料はいずれも上昇しており、右特約の適用の基礎となる事情に変動はないというべきである。

2  本件賃料自動改定特約は、本件賃貸借契約の期間中、原、被告双方を拘束し、互いに右特約に反する増減額請求をすることを排斥するものである。

したがって、被告の賃料減額請求は、本件賃料自動改定特約に違反し、認められない。

第三  争点に対する判断

一  前記前提となる事実に、証拠(甲一ないし三、八ないし一〇、乙一、二の一・二、九、原告代表者本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

1  本件建物は、JR山手線渋谷駅から北西約二五〇メートルの繁華街に位置しており、周囲には百貨店等の多数の大規模店舗が建ち並んでいる。

原告は、本件建物の敷地である借地上に平屋建ての建物を所有して不動産業と喫茶店等を営んでいた。

2  被告は、百貨小売業等を業とする株式会社であるところ、本件建物の敷地部分を含めた土地上に被告渋谷店本館を建設することを計画し、昭和五五年ころから原告の代表取締役である田久保三四郎と交渉を開始した。その後、原告と被告との間で一〇〇回以上にわたる交渉がもたれ、その結果、昭和五九年一月本件建物を原告の単独所有とすること、本件建物部分を被告に賃貸する場合の賃料は暫定的に坪当たり一万円とすることなどを定めた基本合意が締結されるに至った。

3  その後、本件建物を含め被告渋谷店本館が完成した。被告渋谷店本館は、外観上一体の建物であり、本件建物部分と被告所有の建物との間には、間仕切りが設けられていない。したがって、原告は被告以外に本件建物部分を貸すことは事実上できない。

4  原告は、本件建物完成後、被告が賃貸借契約締結前に本件建物部分に商品を搬入したとして、東京地方裁判所に対し、占有妨害排除を求める仮処分を申し立てた(同裁判所昭和六〇年(ヨ)第二九〇五号)。そして、原告と被告との間で、昭和六〇年四月一八日右仮処分事件において和解が成立し、当該和解及びこれに基づく賃貸借契約の締結により、本件賃貸借契約が成立した。

5  原告と被告は、昭和六二年一一月五日本件建物部分の賃料を昭和六〇年四月一九日以降月額二二〇万円とする旨の訴訟上の和解をした(東京地方裁判所昭和六一年(ワ)第八二四二号)。

6  本件建物部分の賃料(特別賃料を含む。)は、本件賃料自動改定特約に基づき、昭和六三年四月一九日以降一か月二八七万五〇〇〇円に、平成三年四月一九日以降一か月三三〇万六二五〇円にそれぞれ増額された。

二  争点1について判断する。

1  本件賃料自動改定特約の有効性を考えるに当たっては、同特約の適用がないとした場合の本件建物部分の相当賃料を検討することが必要である。なぜならば、被告が主張するように、いわゆるバブル経済の崩壊により右相当賃料が相当程度減額されるべきなどの事実関係があるとすれば、本件賃料自動改定特約を適用する基礎となる事情に変動があり、その結果、事情変更の原則の適用によるものか否かはひとまずおくとして、同特約は失効したと判断する余地が生じてくるからである。

そこで、本件賃料自動改定特約が適用されないとした場合の平成六年四月一九日、平成八年四月一日及び平成九年四月一九日の各時点の鑑定を、鑑定人に対して命じたところ、鑑定人は差額配分法による賃料、利回り法による賃料、スライド法による賃料及び比準賃料をそれぞれ算出し、これらを総合した上、次のような鑑定結果を出した(以下「本件鑑定」という。)。

時点 鑑定評価額 鑑定評価額に基づく実質賃料

(一) 平成六年四月一九日

二六七万六六〇〇円 四二八万八九〇〇円

(二) 平成八年四月一日

二三九万六三〇〇円 四〇〇万八六〇〇円

(三) 平成九年四月一九日

二二八万九〇〇円 三八九万三二〇〇円

2  本件鑑定によれば、本件賃料自動改定特約が適用されないとした場合の平成六年四月一九日及び平成九年四月一九日以降の本件建物部分の支払賃料はいずれも減額されるべきであるということになり、同特約はその前提とする経済事情に大きな変動が認められることから、失効したと考える余地が生じてくる。

しかしながら、右鑑定には、次のような問題点があり、そのままの形では採用することができない。すなわち、まず本件鑑定は、原告が被告に差し入れた敷金と保証金の運用益が本件賃貸借契約期間中(二〇年間)均一であるという前提に立ち、次のような計算式を定立している。

一時金の運用益=4000万円×運用利回り7パーセント÷12か月+2億9231万2000円×平均運用利回り5・661パーセント÷12か月=(約)月額161万2300円

そして、平成三年四月一九日時点の実質賃料は、二九〇万九五〇〇円に右一時金の運用益一六一万二三〇〇円を加算した四五二万一八〇〇円であるとし、平成六年四月一九日、平成八年四月一日及び平成九年四月一九日の各時点の鑑定評価額も実質賃料から右一六一万二三〇〇円を差し引いた金額をもって算出している。

なるほど、右のような一時金の運用益の算出方法は、賃貸借契約終了の段階で一時金を全額返還する旨の合意がされている場合には、ある程度首肯できる面があるものの、本件賃貸借契約における保証金のように一一年目から期間満了まで二パーセントの利息を付した上、一〇分の一ずつ順次返還するとの合意がされている場合には、妥当しないというべきである。なぜならば、一一年目以降は預託された保証金は年々減少するのであり、当然それに応じて運用益も減少していくはずであって、鑑定人の採った計算方法はこうした事実を無視しているといわざるを得ないからである。

また、本件鑑定は運用利回りを賃貸借契約期間中(二〇年間)一律七パーセントとして計算しているが、長期プライムレートは昭和六〇年から平成四年までは年平均六・五八パーセントであったものの、平成五年から平成九年までは年平均約三・六〇パーセントまで低下しているのであって(甲一四、乙一一)、いわゆるバブル経済のころとそれ以降で一律に計算するというのは現実離れしているといわざるを得ない。右長期プライムレート等の数値の変動を考慮すれば、一時金の運用利回りを昭和六〇年から平成四年までは年七・五パーセント、平成五年以降は年四・五パーセントとして計算するのが相当である。

さらに、本件鑑定は差額配分法、利回り法、スライド法及び賃貸事例比較法を三・一・四・二の割合で考慮し、相当賃料を算定している。

しかしながら、大規模小売店舗である被告渋谷店本館は外観上一体の建物であり、本件建物部分と被告所有の建物部分との間には間仕切りもなく、原告が被告以外の第三者に本件建物部分を賃貸することは事実上できないこと、被告は営業に必要な広告及び看板(袖看板及び懸垂幕を含む。)を本件建物に無償で設置することができること(甲一)、本件賃貸借契約期間は二〇年間という長期に設定され、期間中は賃料自動改定特約に基づき賃料の増額がされる反面、被告から原告に対し、一一年目から期間満了まで利息付きで一〇分の一ずつ順次保証金が返還され、かつ、更新料の支払などの問題が生じないこと、被告は原告に対し、賃貸借期間である二〇年間に限り本来の賃料の外に特別賃料を支払うこととされていることなどの本件賃貸借契約の特殊性に鑑みると、差額配分法、利回り法及び賃貸事例比較法はこうした個別的事情が反映されにくく、かつ、同種事例を選択することが困難であるという難点があるといわざるを得ない。したがって、本件建物部分の相当賃料の算定に当たっては、スライド法をより重視すべきであり、スライド法、差額配分法、利回り法及び賃貸事例比較法を六・二・一・一の割合で考慮するのが相当である。

そこで、本件鑑定の問題点を修正した上、本件賃料自動改定特約が適用されないとした場合の相当賃料を算定する。

(一) 平成三年四月一九日時点の実質賃料 一時金の運用益は、二〇七万七〇〇〇円と認められる。

(4000万円+2億9231万2000円)×運用利回り7・5パーセント÷12か月=(約)207万7000円

そうすると、平成三年四月一九日の時点における実質賃料は四九八万六五〇〇円となる。

(二) 平成六年四月一九日現在の相当賃料

(1) 一時金の運用益は、一二四万六二〇〇円と認められる。

(4000万円+2億9231万2000円)×運用利回り4・5パーセント÷12か月=(約)124万6200円

(2) 差額配分法 三四四万五三〇〇円

(適正実質賃料439万6500円-実際実質賃料498万6500円)÷2=-29万5000円

(賃貸人に帰属すべき配分額)

498万6500円-29万5000円-124万6200円=344万5300円

(3) 利回り法 一八七万六〇〇〇円

・最終合意時点における純賃料 四八九〇万九七〇〇円

(月額四〇七万五八〇〇円)

年額実質賃料5983万8000円-必要諸経費等(平成3年4月19日時点)1092万8300円=4890万9700円

・継続賃料利回り 二・六六パーセント

4890万9700円÷本件建物部分の基礎価格(平成3年4月19日時点)18億4200万円=(約)0・0266

・平成六年四月一九日時点における純賃料 二六七〇万六四〇〇円

本件建物部分の基礎価格(平成6年4月19日時点)10億400万円×0・0266=2670万6400円

・利回り法による試算賃料

(2670万6400円+必要諸経費等(平成6年4月19日時点)1075万9500円)÷12か月=(約)312万2200円

312万2200円-124万6200円=187万6000円

(4) スライド法 三七六万二九〇〇円

純賃料(平成3年4月19日時点)407万5800円×(1+変動率0・009)+必要諸経費等(平成6年4月19日時点)89万6600円=(約)500万9100円

500万9100円-124万6200円=376万2900円

(5) 比準賃料 三〇〇万二三〇〇円

比準賃料(実質賃料)424万8500円-124万6200円=300万2300円

(6) 総合

前記のとおりスライド法、差額配分法、利回り法、賃貸事例比較法を六・二・一・一のウエイトで加重平均すると、平成六年四月一九日時点の相当賃料は三四三万四六〇〇円(実質賃料四六八万八〇〇円)と認められる。

(三) 平成八年四月一日現在の相当賃料

(1) 一時金の運用益は、同月一八日から利息付きの保証金の返還が始まることを考慮すると、六四万九四〇〇円と認められる。

4000万円×運用利回り4・5パーセント÷12か月=15万円

[(2億9231万2000円-2923万1200円)×運用利回り4・5パーセント-支払利息584万6240円]÷12か月=(約)49万9400円

15万円+49万9400円=64万9400円

(2) 差額配分法 三六四万九五〇〇円

(適正実質賃料391万7000円-実際実質賃料468万800円)÷2=-38万1900円(賃貸人に帰属すべき配分額)

468万800円-38万1900円-64万9400円=364万9500円

(3) 利回り法 二四七万九五〇〇円

・平成六年四月一九日時点における純賃料 四五四一万一〇〇円

(月額三七八万四二〇〇円)

年額実質賃料5616万9600円-必要諸経費等(平成6年4月19日時点)1075万9500円=4541万100円

・継続賃料利回り 四・五二パーセント

4541万100円÷本件建物部分の基礎価格(平成6年4月19日時点)10億400万円=(約)0・0452

・平成八年四月一日時点における純賃料 二六五七万七六〇〇円

本件建物部分の基礎価格(平成8年4月1日時点)五億8800万円×0・0452=2657万7600円

・利回り法による試算賃料

(2657万7600円+必要諸経費等(平成8年4月1日時点)1096万8800円)÷12か月=(約)312万8900円

312万8900円-64万9400円=247万9500円

(4) スライド法 四〇五万六五〇〇円

純賃料(平成6年4月19日時点)378万4200円×(1+変動率0・002)+必要諸経費等(平成8年4月1日時点)91万4100円=(約)470万5900円

470万5900円-64万9400円=405万6500円

(5) 比準賃料 三一六万三六〇〇円

比準賃料(実質賃料)381万3000円-64万9400円=316万3600円

(6) 総合

前記のとおりスライド法、差額配分法、利回り法、賃貸事例比較法を六・二・一・一のウエイトで加重平均すると、平成八年四月一日時点の相当賃料は三七二万八一〇〇円(実質賃料四三七万七五〇〇円)と認められる。

(四) 平成九年四月一九日現在の相当賃料

(1) 一時金の運用益は、既に利息付きの保証金の返還が始まっていることを考慮すると、五八万八五〇〇円と認められる。

4000万円×運用利回り4・5パーセント÷12か月=15万円

[(2億9231万2000円-5846万2400円)×運用利回り4・5パーセント-支払利息526万1616円]÷12か月=(約)43万8500円

15万円+43万8500円=58万8500円

(2) 差額配分法 三四八万二四〇〇円

(適正実質賃料376万4300円-実際実質賃料437万7500円)÷2=-30万6600円(賃貸人に帰属すべき配分額)

437万7500円-30万6600円-58万8500円=348万2400円

(3) 利回り法 三六一万三五〇〇円

・平成八年四月一日時点における純賃料 四一五六万一二〇〇円

(月額三四六万三四〇〇円)

年額実質賃料5253万円-必要諸経費等(平成8年4月1日時点)1096万8800円=4156万1200円

・継続賃料利回り 七・〇七パーセント

4156万1200円÷本件建物部分の基礎価格(平成8年4月1日時点)5億8800万円=(約)0・0707

・平成九年四月一九日時点における純賃料 三九五二万一三〇〇円

本件建物部分の基礎価格(平成9年4月19日時点)5億5900万円×0・0707=(約)3952万1300円

・利回り法による試算賃料

(3952万1300円+必要諸経費等(平成9年4月19日時点)1090万2200円)÷12か月=(約)420万2000円

420万2000円-58万8500円=361万3500円

(4) スライド法 三八二万一五〇〇円

純賃料(平成8年4月1日時点)346万3400円×(1+変動率0・011)+必要諸経費等(平成9年4月19日時点)90万8500円=(約)441万円

441万円-58万8500円=382万1500円

(5) 比準賃料 三〇四万七六〇〇円

比準賃料(実質賃料)363万6100円-58万8500円=304万7600円

(6) 総合

前記のとおりスライド法、差額配分法、利回り法、賃貸事例比較法を六・二・一・一のウエイトで加重平均すると、平成九年四月一日時点の相当賃料は三六五万五五〇〇円(実質賃料四二四万四〇〇〇円)と認められる。

3  以上によれば、本件賃料自動改定特約が適用されないとした場合の相当賃料は、平成六年四月一九日時点で三四三万四六〇〇円であり、平成九年四月一九日時点で三六五万五五〇〇円となる。

そうすると、本件自動賃料改定特約が適用されるとした場合の平成六年四月一九日時点の賃料は、三三四万五九二五円であり、平成九年四月一九日時点のそれは三八四万七八一四円であるから、平成六年四月一九日時点の右賃料は同特約の適用がないとした場合の相当賃料よりむしろ下回ることになるし、平成九年四月一九日時点の右賃料は同特約の適用がないとした場合の相当賃料を若干上回る程度に過ぎない。したがって、本件自動賃料改定特約は少なくとも現段階においては、いまだ同特約の前提となる事情について、同特約が失効したものと判断するに至る程の変動があったとまでは認め難いというべきである。

なお、特別賃料については、被告は三年ごとに一五パーセントの増額がされることを争っていないところ、平成六年四月一九日時点の特別賃料は四五万六二六三円であり、平成九年四月一九日時点のそれは五二万四七〇二円である。

以上によれば、争点1についての被告の主張は理由がない。

三  争点2について判断する。

前記説示のとおり本件賃料自動改定特約が失効したと判断することはできないから、被告は原告に対し、本件建物部分の賃料の減額請求権を行使することはできないというべきである。

加えて、本件賃料自動改定特約が適用されないとした場合の平成三年八月一日時点の本件建物部分の相当賃料は、平成三年四月一九日時点及び平成六年四月一九日時点のそれを上回っていることは前記認定のとおりである。

以上によれば、争点2についての被告の主張も理由がない。

四  結局、原告の請求は理由があるが、被告の請求は理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 志田原信三)

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